第61章

酒井初音は主寝室へ戻ると、淡々と身支度を整えた。洗顔を終えた彼女の澄んだ瞳には、もう取り返しのつかない冷たさだけが宿っている。

脳裏をよぎったのは、久世玲央がみっともなく縋りつき、死にもの狂いで許しを乞う姿。

――滑稽。

もういい。あのときの自分の尽くしなんて、全部無駄だったと思えばいい。

一日中張り詰めていた疲れがどっと押し寄せ、白いレースのネグリジェのままベッドへ潜り込む。端っこで小さく丸まり、目を閉じても、眠りは一向に落ちてこなかった。

そのとき。

主寝室の扉が外から押し開けられる。

御影怜司が長い脚で部屋へ入ってきた。回復して間もない身体で、今日は立っている時間が少し長...

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